プロジェクト名: Proteiプロジェクト
導入場所: 世界各地
対象業界: 海洋汚染
プロジェクトパートナー: 
2010年4月20日、ディープウォーター・ホライズン災害（図1、2）で11名が死亡、17名が負傷しました。この事件は人類史上最大の海洋石油流出事故として記録されています。メキシコ湾で操業していた海洋石油掘削リグ「ディープウォーター・ホライズン」が爆発し、多くの死傷者を出したのです。爆発から2日後にリグは転覆。海底のリグ下にある破損したパイプから原油が周辺海域へ流出し始めました。
その結果、87日間で490万バレルの原油が210km²の範囲に流出しました。さらに深刻なことに、179万1000米ガロンの有毒な石油分散剤（Corexit EC9500AとEC9527A）が水面と水中に散布されました。これらは人間と動物の生殖器系、胎児の発達に影響を与える発癌物質を含んでいます。地域コミュニティと野生動物の生活は壊滅的な打撃を受け、環境への損害は今も続いています。（Monnier, 2021; Jung-Harada et al, 2011）。
図1. 海洋石油掘削リグ「ディープウォーター・ホライズン」の炎上と消火活動を行う補給船 Ⓒ U.S. Coast Guard (Monnier, 2021)
図2. 「ディープ・ホライズン」噴出口上の流出石油 Ⓒ Daniel Beltrá (Khatchadourian, 2011)
課題とは？
海洋生態系における石油流出を、どのようにして迅速かつ効果的に清掃するか？
プロジェクトについて
2011年、メキシコ湾でのディープウォーター・ホライズン災害によって引き起こされた世界的な石油流出への対処を支援するため、Protei（図3）—水波に応じて形状を変化させることができる風力駆動自動航行艦隊ロボット—が海洋の石油清掃のために開発されました。Proteiは、MakerBayがSeeed Studioとのパートナーシップで先導したソフトハル技術によって実現されたオープンハードウェアプロジェクトです。Proteiを「自己復帰性があり、耐久性があり、安価で、容易に再現可能」にするという目標を持って、多くのプロトタイプがテストされ、自動化ハルボートの風上航行と既存の汚染清掃技術との比較効率分析を通じて研究されました。（Jung-Harada et al, 2011）。
図3. Protei概要 (MakerBay, 2020)
2015年に設立されたMakerBayは、Cesar Jung-Haradaによって設立された香港最大級のメーカースペースの一つです。Cesarは日仏系の教育者、環境保護活動家、起業家であり、環境と社会のためのオープンでボトムアップかつ協力的なイノベーションの促進と、地域コミュニティの自己エンパワーメントに情熱を注いでいます。MakerBayは、地域コミュニティ内で誰でもメーカーのスキルとマインドセットを学び、持続可能な世界のためにオープンプロトタイプをグローバルに拡大して共有することを促進しています。（MakerBay, n.d.）。
2011年にロッテルダムでProteiの最初のバージョン（Protei_001）が作られた時、Cesar Jung-Haradaと彼のチーム（図4）は通常の帆船を水面に置き、長い重いラインを引くことで操作しました（図5）。この最初の帆船で、チームはボートの尾部が長いほど、引っ張り力と方向制御が少なくて済むという重要な観察を行いました。Proteiはアクセス可能で安価、リサイクルされた材料を使用して作られているため、Open Sailingによって世界中で大規模に構築・展開されています。（Jung-Harada et al, 2011）。参考として、Open Sailingは海洋生態系の健康を研究、探索、保護するためのオープンソース技術の開発と展開に取り組む成長中の国際的なオープンコミュニティです（Jung-Harada et al, 2011）。
図4. Proteiチーム (MakerBay, 2020)
図5. Protei_001の動作方法 (Jung-Harada et al, 2011)
Proteiハンドブック2011で詳述されているように（Jung-Harada et al, 2011）：
「…Proteiの設計と実装は継続的な進化であり、世界中の人々がバージョンごとに構築・展開を続け、その効率性と堅牢性に貢献していきます。…階層的な指揮系統ではなく、人々は計画、予算、ハードウェア、ソフトウェア、製造、設計、テストを含むプロジェクトの各側面について自分のアイデアを共有します。」
それ以来、これがオープンイノベーションプロジェクトとして生まれたことにより、Proteiはさまざまなバージョンにアップグレード・発展してきました（図6）。これは、Seeedが提供するさまざまなリソース—財政スポンサーシップ、ハードウェア製品スポンサーシップ、カスタマイゼーションサービス—を最大限に活用できたCesar、彼の同僚、そしてOpen Sailingのグローカル（グローバル＋ローカル）なメーカーたちの絶え間ない努力と真摯な心によって可能になりました。（MakerBay, 2020）。
図6. Proteiの様々なバージョン (MakerBay, 2020; Jung-Harada et al, 2011)
プロジェクト途中でソフトハル技術をProteiに組み込むことで、自動艦隊は風や水面流などの自然の力に応じて滑らかに航行し、地域コミュニティのリソースと創造性を生かせるようになりました。その結果、Proteiはすでに世界各地に拡散した水面上の薄い軽質油膜の収集・清掃に非常に効果的であることが実証されました。Proteiは厳しい気象条件や有害化学物質区域でも生存できる頑丈な構造のため、現在では石油流出の清掃だけでなく、海洋の固形廃棄物やその他の化学汚染物質の清掃にも使用されています。漁師が操作する既存の石油流出対応—用途転用された有人漁船—と比較して、Proteiは以下の理由でより良い、より安全で持続可能な選択肢として認識されています（Jung-Harada et al, 2011）：
- 無人で完全に自律的な艦隊により、漁師が毒素や様々な健康リスクにさらされることを防ぐ
- 海上の嵐などの極端な気象条件での操作能力
- 艦隊内の石油感知技術により、予測データを通じて石油流出の軌跡を検出し、通常は人間の目には見えない最小量の石油を収集可能
- 再生可能エネルギー（アクチュエーション用ソーラーパワー、移動用風力）による動作により、環境破壊的なディーゼルや石油の駆動力が不要
- Proteiの製造には安価で手頃なオープンソースハードウェアが含まれる一方、有人漁船は高価でプロプライエタリ設計
当初石油流出清掃を目的に開発されたソフトハル技術は、他の多くの海洋アプリケーションに適用できます。実際、この技術的認識により、30台のProteiがさらなる研究、開発、展開のために研究所、博物館、文化センターに販売されました。プロジェクトの詳細については、全プロジェクト文書のhttps://www.scoutbots.com/をご覧ください。
関連するSDGsは？
世界中にProteiを展開することで、国連のSDGsとターゲット（図7）の達成を目指しています：
図7. Proteiプロジェクトと最も関連するSDGs (UN, 2016)
これらのSDGsがプロジェクトと密接に関連している理由と、各目標が直接的または間接的にどのように相互に影響し合っているかを理解するため、これらの目標内の具体的なターゲットを研究することが必要です：
- 汚染の最小化、ゴミ投棄、有害物質の放出によって世界的に水質を向上させる（ターゲット6.3）
- あらゆる種類の海洋汚染を防止し、大幅に削減する（ターゲット14.1）
- 水関連生態系を保護・復元する（ターゲット6.6）
- 水と衛生の改善において地域コミュニティの参加を強化・支援する（ターゲット6.B）
- 包括的、統合的、持続可能な人間居住地の構築による包括的都市化の向上で、全体的な災害リスク管理を実現（ターゲット11.3 & 11.B）
- 海洋・沿岸生態系を持続可能に管理・保護し、レジリエンスの強化を含む重大な悪影響を回避し、健全で生産的な海洋を実現するための復元行動を取る（ターゲット14.2）
- 海洋生物多様性の保全と海洋・海洋資源の持続可能な利用のため、科学的知識、研究開発、海洋技術移転を増大させる（ターゲット14.A & 14.C）
- 陸域・内陸淡水生態系の保全、復元、持続可能な利用を確保する（ターゲット15.1）
- 水汚染・汚染による有害化学物質による疾病・死亡数を大幅に削減する（ターゲット3.9）
- 開発途上国の災害救援能力を強化（早期警戒、リスク削減、世界的・国家的健康リスク管理を含む）（ターゲット3.D）
- 脆弱な状況の人々の保護に焦点を当てた水関連災害による人数、死亡、経済損失を大幅に削減する（ターゲット11.5）
- 経済的、社会的、環境的災害への暴露を減らすことで、貧しく脆弱な状況の人々のレジリエンスを構築する（ターゲット1.5）
- エネルギー効率のためのクリーンエネルギー研究・技術に関する国際協力を強化することで再生可能エネルギーの使用を大幅に増大させる（ターゲット7.2、7.3、7.A）
- 産業部門の科学研究・技術能力を強化する（ターゲット9.5）
- 環境劣化を解決するため、特に天然資源において、生産における世界的資源効率を徐々に向上させる（ターゲット8.4 & 12.2）
- すべての国で気候関連の危険と自然災害に対するレジリエンスと適応能力を強化する（ターゲット13.1）
- 化学物質とすべての廃棄物の環境に配慮した管理を達成し、水への放出を大幅に削減する（ターゲット12.4）
- 人々が持続可能な発展と自然との共生に関する知識の普及を促進する（ターゲット12.8）
- 特に環境に配慮した技術における科学、技術、イノベーションへの南北、南南、三角地域・国際協力とアクセスを向上させる（ターゲット17.6 & 17.7）
- 公的、官民、市民社会パートナーシップによるマルチステークホルダーパートナーシップを通じた持続可能な発展のためのグローバルパートナーシップを向上させる（ターゲット17.16 & 17.17）
結論として、オープンイノベーションとProteiプロジェクトの価値は、石油流出や海洋汚染などの人為的災害への対応における大きな可能性を示しています。実際、デジタルトランスフォーメーションの中核には、技術の分散化と民主化が原動力として存在するオープンイノベーションがあります。損傷した海洋生態系を保全・復元するため、オープンテックイノベーターたちは、マルチステークホルダーパートナーシップの重要性を内在化することで、全体的なプロジェクトとソリューションを共創するために懸命に努力しています。私たちの使命が終わるその日まで、私たちは活動を続けていきます。